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高スキル退職者という都市部のリソース ローカルリンクステーション ④

  • 執筆者の写真: admin
    admin
  • 9月12日
  • 読了時間: 4分

【内容】

第1章:力を持て余す“高スキル退職者”の時代

第2章:なぜ活かされないのか?ミスマッチの構造

第3章:“扱う”のではなく、“迎え入れる”ために

 

 

第1章:力を持て余す“高スキル退職者”の時代

いま都市部では、大企業や官公庁で長年働いてきた高スキル退職者が、毎年数十万人の規模で社会に送り出されています。

団塊ジュニアからバブル世代を中心に、知見・マネジメント力・人脈を持ち合わせた人材が数多く存在しますが、その多くが「力はあるのに行き場がない」状態に置かれています。

背景には健康寿命の延伸があります。

かつての65歳は引退の象徴でしたが、今や“ひと昔前の55歳”並みに元気で、10〜15年の社会参加は十分に現実的です。

それにもかかわらず、制度上は定年で退場し、その後の働き方や社会との関わり方に明確な道筋が用意されていないのが現状です。

その一方で、地域や地方の中小企業では、技術承継や経営改善、人材育成といった領域で知見を持つ外部人材へのニーズが高まっています。

都市の退職者と地域の課題は、本来であれば補完関係にあるはずですが、その間には大きな“接続不全”が横たわっています。

 

第2章:なぜ活かされないのか?ミスマッチの構造

高スキル退職者の活用が進まない最大の理由は、社会側の受け皿と本人のマインドセット、そして両者の間にあるミスマッチです。

第一の課題は、シルバー人材センターとの不一致です。

センターが提供する仕事の多くは、草むしり、書類整理、軽作業など“作業型”のものです。しかし、退職者の多くは「経験や知見を活かした知的貢献をしたい」「誰かの相談役になりたい」という動機を持っています。

「手を動かす」ではなく「頭と心で支援する」ことに意義を感じる人々にとって、現在のシルバー人材センターの業務内容では物足りず、登録しても稼働に至らないケースが多くあります。

第二の課題は、受け皿の制度設計の未成熟さです。

地方の中小企業や自治体には、「都市の退職者を迎え入れたい」という意欲があっても、それを実現する制度やコーディネーターが不足しています。

地域側も「元大企業の部長」にどう接するべきか悩み、結果として敬遠してしまうことがあります。

第三の課題は、本人側の戸惑いです。

組織に属し、役職の中で評価されてきた人ほど、「自由に、自分で動く」という新しい働き方に不安を感じがちです。「何をすればいいか分からない」「どこに行けば必要とされるのか分からない」という迷いの中で、第二のキャリアへの一歩を踏み出せずにいます。

 

第3章:“扱う”のではなく、“迎え入れる”ために

高スキル退職者を地域や社会で活かしていくためには、「人材」として“配置”するのではなく、「関係性」として“迎え入れる”発想が不可欠です。

まず、彼らが求めているのは、単なる仕事ではなく「意味ある役割」です。

若手の育成、地域への貢献、知識の継承など、「自分の経験が誰かの役に立っている」と実感できる場が必要です。

また、「月に1〜2回の助言」「週1日の壁打ち」といった無理のないペースと裁量のある関わり方を望んでいます。

そのためには、「月1回のアドバイザリーボード」「若手起業家への壁打ち役」「高専や大学での実務講義」など、限定的だが尊敬される立ち位置を用意することが重要です。

そして、彼らの再挑戦を支える“伴走者”の存在も不可欠です。

若手と直接ぶつけるのではなく、間に立つコーディネーターや通訳者が、期待と現実を調整する役割を果たすことで、ギャップが解消されやすくなります。

また、本人側にも意識の再定義が求められます。

「元部長」ではなく「経験豊富な相談役」として、「指導する」のではなく「耳を傾ける」関わり方にシフトすることで、地域との信頼関係も築きやすくなります。

シルバー人材センターでは得られない“知的・共感的な貢献の場”を社会の中に設計し直すことが、今後ますます重要になっていくでしょう。

高スキル退職者は、扱いづらく見えるかもしれませんが、丁寧に迎え入れれば「地域の宝」になりうる人材です。

 
 
 

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