駅ビルの変革プロセス ローカルリンクステーション ⑧
- admin
- 9月24日
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【内容】
第1章:駅ビルを「育てる場」に変えるために
第2章:駅ビルで実践する「5段階の進化プロセス」
第3章:駅ビルの新しい社会的役割へ
第1章:駅ビルを「育てる場」に変えるために
地方の駅ビルが抱える課題に対して、「生業の産業化」を軸とした再定義が求められています。これまで駅ビルは商業施設としての役割を担い、買い物や飲食の場として地域住民や旅行者を受け入れてきました。しかし近年、物販テナントの減少や利用者の減少により、かつての活気が薄れつつあります。
そうした中で今、駅ビルには新たな使命が求められています。
その使命とは、「生業」と呼ばれる地域に根ざした営みを次世代に継承し、発展させる“育成の場”として機能することです。生業とは、和菓子屋や豆腐屋、町工場、直売農家など、個人や家族単位で細々と営まれてきた仕事を指します。これらは属人的で非効率な側面を持ちながらも、地域の暮らしや文化を支えてきた大切な存在です。
しかし、少子高齢化と後継者不足、さらに経済的な持続性の限界により、各地で静かにその灯が消えつつあります。
そこで必要なのが、「生業の産業化」という視点です。
これは、属人的な営みを、他者が継ぎ、拡げ、持続できる事業体として進化させる取り組みを意味します。
駅ビルがこのようなプロセスの起点・実験場となることで、新たな価値を生み出すことができるのです。
第2章:駅ビルで実践する「5段階の進化プロセス」
この構想を実現するためには、段階的かつ実践的なステップを踏んで、生業から産業への成長を促す仕組みづくりが必要です。以下は、そのための5段階の進化プロセスです。
【1】発見:生業の価値を可視化する
第一に、生業そのものの価値を「見える化」することが出発点です。駅ビル内のスペースを活用し、地元の豆腐屋や町工場、和菓子職人などの仕事を紹介する展示を行います。彼らの歴史や技術、こだわりを紹介することで、来館者に「こんな仕事があったのか」と気づく機会を提供します。地域の誇りの再発見につながる重要なフェーズです。
【2】接続:都市部人材とつなぐ
次に、生業の担い手と、都市部で豊富な経験を積んだ高スキル退職者や副業希望者との接点を作ります。定期的なマッチングイベントや共創カフェを通じて、アドバイザー・協業・応援など多様な関わり方を模索します。特に「週1回から関われる」など柔軟な関与形態を設計することで、都市部人材の関心と参加を引き出すことができます。
【3】編集:再現可能な知識へ翻訳
第三に、生業の現場で使われている知見を「形式知」へと変換します。レシピや製造工程、接客ノウハウなどを文書や映像で記録し、誰でも継承可能なナレッジとする工程です。ここでは、編集者やコーディネーターが職人や事業者の語りに寄り添い、伝わる形に整える「翻訳者」としての役割を果たします。
【4】試行:販路と共創を試す
第四に、編集された生業の成果を実際に「試す」場として、駅ビルのポップアップショップやテスト販売の場を設けます。これにより、地域住民や観光客の反応を直に得ながら改善を重ねることができます。また、都市部百貨店やオンラインECとの接続を支援することで、販路の多様化を図ることも可能です。
【5】構築:事業体としての持続化
最後に、こうした成功事例をもとに、生業を法人化またはパートナーシップ化し、持続可能な運営体制へと昇華させます。都市部人材がアドバイザーやメンターとして伴走する仕組みを整えることで、外部との継続的なつながりも維持されます。ここで初めて、生業が「産業」として地域に根を張ることが可能になります。
第3章:駅ビルの新しい社会的役割へ
こうした5つの段階を通じて、駅ビルは「地域の未来を編集・実装する場」へと変貌します。
従来のようにテナント誘致に頼るのではなく、地域に存在する価値ある仕事を再発見し、それを広く社会とつなぎ、育てていく過程自体が、駅ビルの新たな価値創造の源となるのです。
重要なのは、駅ビルが物販施設から「社会装置」へと機能転換することです。
展示・交流・編集・実践という一連のプロセスにより、誰もが参加できる「社会実験の場」として機能し始めれば、地域住民、都市部人材、事業者、行政といった多様なステークホルダーが集い、協働できる新しい地域の拠点としての駅ビルが生まれます。
このような取り組みは、単なる経済再生ではなく、“次世代の地方創生”のプロトタイプとなりうるのです。
駅という場所が持つ公共性と中立性を最大限に活かし、地域と都市を結ぶ新しい価値共創のステージを築いていくことが、これからの地方駅ビルに求められる本質的な変革といえるでしょう。
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