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次世代駅ビルの効用 ローカルリンクステーション ⑨

  • 執筆者の写真: admin
    admin
  • 9月26日
  • 読了時間: 4分

【内容】

第1章:地域経済への貢献 〜生業の再生が雇用と活力を生む

第2章:文化と社会価値の継承 〜知恵と技を“次世代につなぐ”

第3章:鉄道会社の価値創造 〜駅ビルが中間支援装置へ

 

 

 

第1章:地域経済への貢献 〜生業の再生が雇用と活力を生む

駅ビルを舞台にした「生業の産業化」は、地域経済の再活性化に直結する取り組みです。従来、廃業の危機に瀕していた和菓子屋や豆腐屋、町工場、農家の直売所などの生業が、都市部人材や専門家の支援を受けながら再設計され、持続可能な事業体へと変貌を遂げていきます。

このような進化は、地域内に新たな雇用を創出します。

高齢の職人がリタイアしても、若手が育ち、外部から関わる人材が増えることで、多世代・多様性のあるチームが形成されていきます。

たとえば、高スキル退職者がアドバイザーとして関わり、若い移住者が事業運営を担うような協働体制が実現することもあります。

加えて、これまでローカルに留まっていた小規模事業が、ブランディングや販路開拓により域外市場へのアクセスを得ることで、売上の安定化や雇用の拡大が可能になります。

単なる「存続の支援」ではなく、「成長する地域ビジネス」としての道が開かれるのです。

また、個別の事業者が再生するだけでなく、地域全体の経済循環を促す波及効果も期待できます。地元での仕入れや人材採用が増え、商店街や地場産業との連携が進むことで、地域経済が多層的に強くなっていくのです。

 

第2章:文化と社会価値の継承 〜知恵と技を“次世代につなぐ”

経済的な効果と並んで大きいのが、地域文化と社会的価値の継承です。

生業に内包されている「暗黙知」は、マニュアルでは伝えきれない感覚的な知識や経験です。これを丁寧に言語化・形式知化し、若手や第三者にも伝えられる形に編集していくことは、未来への橋を架ける行為です。

たとえば、ある和菓子屋が職人の感覚を若手に教える過程を映像化し、地域の学校や観光施設で教材として活用するケースが想定されます。また、町工場の加工技術を地域の高専や工業高校と連携して記録し、教育資源として活用することも可能です。

このように、地域に埋もれていた技術や知恵を可視化・共有することで、「学ぶ地域」「誇れる地域」としての価値が高まり、移住希望者や若者にとって魅力あるキャリアの場として地域が映るようになります。

さらに、働き方の価値も変化します。

都市部に集中していた「意味ある仕事」が、地方にも存在することが伝われば、地方での就労や副業参加が増えます。「何をやるか」だけでなく、「どこで、誰と、どんな関係でやるか」という軸でのキャリア形成が促され、地域での生きがいやつながりを求める人が集まる基盤が整います。

このことは、単に経済や雇用の話にとどまらず、地域社会の豊かさを守るための「文化の再生産」ともいえる重要な機能を果たすことになります。

 

第3章:鉄道会社の価値創造 〜駅ビルが中間支援装置へ

駅ビルの空き区画や遊休スペースを「地域と都市の知見が交差する拠点」として再構築することは、鉄道会社にとっても大きな意味を持ちます。

これまでの駅ビル運営は、物販・飲食といったテナント収益が中心でしたが、その構造は時代とともに限界を迎えています。

「生業の産業化」という社会課題の解決に貢献することで、駅ビルは単なる商業施設から、「地域課題の実装型ソリューション拠点」へと進化します。

鉄道会社としても、企業のCSV(共通価値の創造)戦略の一環として、本取り組みを位置づけることが可能です。

また、こうした事例は他地域への展開が容易であるという利点もあります。

駅という存在は、都市と地方をつなぐ起点であり、全国各地に同様の課題と可能性が存在します。ひとつのモデル駅ビルで得られたノウハウやネットワークを、他の駅ビルにも展開することで、スケールメリットを活かした地域活性化が実現できます。

さらに、地域社会と深く関わることで、鉄道会社が単なるインフラ提供企業ではなく、「地域価値創造企業」としての新たな役割を確立できます。

これは中長期的に見て、沿線人口の定着や地域からの信頼獲得といった、鉄道事業全体にも良い影響を及ぼすことでしょう。

 
 
 

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