第3章 日本文化は情感を育てる知恵だった 情感資本によるしなやかな社会づくり ③
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【内容】
1.日本文化の本質とは何でしょうか
2.日本文化は情感を美しく分かち合ってきました
3.文化とは、情感を分かち合う生活の知恵です
1.日本文化の本質とは何でしょうか
「日本文化」と聞くと、多くの人は何を思い浮かべるでしょうか。
茶道や華道、能や歌舞伎、あるいは神社やお寺を思い浮かべる人もいるでしょう。
一方で、民藝や民謡、祭りや年中行事など、もっと暮らしに近いものを思い浮かべる人もいるかもしれません。
こうして並べてみると、日本文化には実にさまざまな形があります。
しかし、私は長い間、「これらに共通するものは何なのだろう」と考えてきました。
例えば、民藝は日用品です。
民謡は歌です。
祭りは行事です。
社寺は場所です。
それぞれ形も役割も違います。
にもかかわらず、私たちはどれも「日本文化」と呼んでいます。
その理由はどこにあるのでしょうか。
私は、その共通点は「人の情感」と深く関わっていることだと思います。
人は嬉しいときに祝い、悲しいときに祈ります。
季節が巡れば花を愛で、大切な人を失えば手を合わせます。
つまり、日本文化とは、暮らしの中に生まれる様々な情感と向き合い、それを人と分かち合うために育まれてきた知恵だと言えます。
文化とは、美しいものを集めたものではありません。
人がより人間らしく生きるために、長い時間をかけて磨かれてきた暮らしの知恵なのです。
2.日本文化は情感を美しく分かち合ってきました
日本には、「もののあはれ」という言葉があります。
桜は満開だから美しいだけではありません。
散っていく姿にも美しさを感じます。
紅葉も、やがて冬が来ることを知っているから心を動かします。
日本人は昔から、移ろいゆくものの中に人生を重ね合わせてきました。
それは、民謡にも表れています。
民謡には、農作業の苦労や家族への思い、旅立ちや別れなど、暮らしの中で生まれるさまざまな情感が歌われています。
歌うことで、苦労はみんなのものになり、悲しみは少しだけ軽くなります。
民藝も同じです。
日々使う器だからこそ、そこに美しさを求めました。
美しい器は、毎日の暮らしを少しだけ豊かにしてくれます。
祭りもまた、人々の願いや喜び、不安を共同体で分かち合う時間でした。
豊作を祝い、災害からの復興を願い、人々は一緒に笑い、一緒に祈ってきました。
このように見ていくと、日本文化は情感を消そうとしてきたのではありません。
悲しみも、不安も、喜びも、そのまま受け止めながら、人と分かち合える形へと育ててきたのです。
私は、このことこそが、日本文化の最も大きな特徴ではないかと思います。
3.文化とは、情感を分かち合う生活の知恵です
ここまで見てきたように、日本文化にはさまざまな形があります。
しかし、その根底には一つの共通した考え方があります。
それは、人間の情感を大切にするということです。
嬉しい出来事は祝いとして共有する。
悲しい出来事は祈りや供養として受け止める。
季節の移ろいは花見や祭りとして楽しむ。
毎日の暮らしは美しい道具によって彩る。
つまり、日本文化は、人間の情感を、誰もが分かち合える形へと育ててきたのです。
私は、本シリーズの中で文化を次のように考えています。
文化とは、人間の情感を、みんなで分かち合える形へと育てる生活の知恵である。
この定義に立つと、文化とは美術館や伝統芸能だけを指すものではありません。
日々の挨拶も、地域のお祭りも、お気に入りの喫茶店も、誰かと語り合う時間も、人の情感を分かち合い、生きる意味を育てるものであれば、すべて文化の一部になります。
そして、この知恵は決して昔だけのものではありません。
むしろ、孤独や不安が広がる成熟社会だからこそ、改めて必要になっているのではないでしょうか。
では、この日本文化が長い時間をかけて育んできた知恵を、現代の暮らしにどう生かしていけばよいのでしょうか。
次章では、その答えを探るために、日本文化に共通して受け継がれてきた「作法」という視点から考えていきたいと思います。
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