先行研究の概観と展望 シンふるさと論 ③
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【内容】
主な研究テーマ
ふるさと研究の変遷
ふるさと研究の現在地
「ふるさと」に関しては社会学・人類学・文化研究・経済学・環境学など多様な分野で研究されています。
ここでは、先行研究の主要テーマ、研究の変遷、現在の課題と今後の展望について概観します。
1.主な研究テーマ
ノスタルジーとふるさとの概念
「ふるさと」は単なる出生地を超え、人々の心に描かれる郷愁の風景として論じられています。高度成長期以降の都市化により「家に帰れない」という喪失感が強まり、「存在しない故郷」への憧れを抱く傾向が指摘されています。
地域アイデンティティとナショナリズム
ふるさとは地域社会のアイデンティティ形成に関わり、祭りや方言、風景への愛着を通じて育まれるとされています。また、戦後日本の政治やメディアは、ふるさとを国民統合の象徴として利用し、「民族主義とナショナリズムの融合」と評価されています。
③ 地方創生・地域振興
1980年代の「ふるさと創生」政策をはじめ、地域振興策の一環としてふるさとの概念が活用されてきました。近年では「ふるさと納税」や関係人口の概念が登場し、新たな地域活性化の手法が模索されています。
観光と交流
都市住民が観光を通じて疑似的な「ふるさと」体験を求める現象が分析されています。1970年代の「ディスカバー・ジャパン」キャンペーン以降、農村体験型観光が普及し、「第二のふるさと」として認識する事例も注目されています。
自然環境と文化的景観
環境学や地理学では、ふるさと意識と里地里山の関係が研究されています。近年では持続可能なふるさとの概念が議論され、景観保全やコミュニティの再生が進められています。
2.ふるさと研究の変遷
戦前から高度成長期
明治維新後、ふるさと観念は国家形成とともに育まれ、小学校唱歌「故郷」(1914年発表)などを通じて国民的郷愁が形成されました。
高度成長期には、都市化に伴い「ふるさと喪失」の感覚が広まり、田舎への郷愁ブームが発生しました。
1980年代: ふるさと創生とノスタルジー政策
1980年代には地方過疎対策として「ふるさと創生」政策が展開され、地域ごとに独自の活性化策が模索されました。
社会学者J.ロバートソンはこの運動を「意図的に利用された郷愁」と分析し、政策が人々のアイデンティティ形成に与える影響を指摘しました。
1990年代: 批判的検討と多角的アプローチ
バブル崩壊後、ふるさと論はより批判的な視点を伴うようになりました。
米国人類学者のマリリン・アイヴィは、日本の消費社会における伝統志向を「幻想」として批評し、ふるさとが経済や政治と結びついて構築されることを論じました。
2000年代以降: グローバル化と新たな展開
グローバル化や少子高齢化の進行に伴い、海外に「ふるさと」を見出す現象や、地域が外国人観光客にとっての「第二の故郷」となる事例が増えています。また、ふるさと納税や関係人口の概念が登場し、地域との多様な関わり方が模索されています。
3.ふるさと研究の現在地
上記のような変遷を経て、ふるさと研究では、次の2点が課題になっています。
第一に、「創られた伝統」と真正性の問題があります。
観光や地域振興のために人工的に演出されたふるさとは、地域文化の多様性を損なう恐れがあります。
第二に、人口減少・高齢化とコミュニティの持続可能性が課題であり、雇用創出や生活インフラ整備が求められています。
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