【内容】
既存指標のレビユー
経営者目線の重要性
健康経営ビルディングの視点
類例サービスの確認
1.既存指標のレビュー
健康や環境に配慮した建築物の認証制度として、「CASBEE」と「LEED認証」「WELL認証があります。
CASBEE:認証:2001年に国交省が主導し設置された委員会によって開発された、建築物の環境性能評価システムです。
利用者の快適性を満たしつつ、ランニングコストの無駄や地球環境・周辺環境への配慮などを、客観的に評価・表示するために活用されています。
公共施設の設計における前提条件として利用されることもあり、建築分野における標準指標として定着しつつあります。
LEED認証:人や環境について考慮したグリーンビルディングを評価する国際認証制度です。
立地や材料など評価項目は多岐に渡り、認証費用も高額のため、日本における認証取得数は、223件(2022年末時点)に留まっています。
WELL認証:環境性能に加えて、建物利用者の健康快適性を評価する国際認証制度です。
その取得基準及び費用は、 LEED 認証よりもさらに複雑・高価になっているため、日本での取得件数は27件(2022年末)と言う状況です。
千葉大学大学院建築コース准教授の林立也氏のコメントでは、「LEED認証やWELL認証は、自動車で言えば、フェラーリのような超高級車に当たるもので、「移動」を目的にするならCASBEE認証の取得が現実的だ」とのことです。
2.経営者目線の重要性
加えて、いずれもが「環境・エネルギー」を中心とした評価指標のため、気候変動が世界的な課題になる中で、必要性は理解されているものの、建築部門での認識に留まっています。
前述の林准教授の見立てでは、「経営者のオフィスに対するコスト感覚は、人件費:家賃:光熱費=7:2:1で、光熱費を半減することよりも、人材獲得や生産性を向上させることを重視するのだ」と言います。
環境・エネルギーコストを50%削減させても、全体コストに対するインパクトは「5ポイント(10×0.5)」であるのに対して、生産性を20%アップさせると「14ポイント(70×0.2)」改善されると言う訳です。
その点で、「労働者の健康を経営資源」として、経営部門の重要ミッションに位置付けた「健康経営」の視点は秀逸だと言えます。
3.健康経営ビルディングの視点
「健康経営」の考え方は、経営層にも認知され、中小企業を含む広い範囲で定着しています。
「健康経営」の考え方をビル全体、さらには街づくりにまで拡大するには、どのようなステイクホルダー?に対して、どんなインセンティブを提供すれば良いのか?を検討しようと言うのが、「健康経営ビルディング」の視点です。
着目点として、現状の「健康経営」に関する評価ポイントは、「自社オフィス内」に留まっていると言う事実があります。
「自社オフィス内」で完結できる労働環境であれば問題ありませんが、実際は執務空間以外にもはみ出し、場合によっては街なかに及ぶことも十分あります。
逆に言えば、「健康経営」を実践するのに相応しい街やビルディングであれば、そこに入居する企業の健康経営評価を下支えすることができる、と言うことではないでしょうか。
仮説となるステイクホルダーとして「ビル所有者や不動産ディベロッパー」が想定されます。
そして健康経営ビルディングのガイドラインに沿う「ビルスペックと共用施設」を整備することで、「入居テナントの健康経営評価を下支え」し、最終的には「入居テナントの賃料アップや、入居率の向上に繋がる」という考え方で検討したいと思います。
類例サービスの確認
健康経営を不動産に活用しようと言う動きは、既にあります。
三井不動産「&well」:「&well」とは、三井不動産のオフィステナントに向けた、健康経営支援サービスです。
これは専用アプリを活かして、企業の健康経営を推進するプラットフォームで、ワーカーを対象にした健康プラグラムやインセンティブ・ポイントの実施と、人事・健康担当者に向けたデータ・情報提供と健康経営「進捗度」管理及び改善コンサルティングとを提供しています。
三菱地所「丸の内ヘルスカンパニー」:三菱地所は、丸の内を舞台にして、健康的な活動に対する「ヘルスポイント」を付与する架空の会社「丸の内ヘルスカンパニー」と言う健康支援サービスを提供しています。
いずれも、「既存の施設を活用して健康行動を促す」と言うスタンスで、「ソフト・ハードの提供による健康経営評価を下支えする」といった部分まで踏み込んでいないのが実情です。
「健康経営ビルディング」の意義と可能性が確認されたと考えます。
Comments