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なぜ今 多次元開発なのか? 多次元開発 ①

  • 執筆者の写真: admin
    admin
  • 2024年10月2日
  • 読了時間: 4分

【内容】

  1. 都心商業&オフィスニーズの展望

  2. 開発費の高騰

  3. コロナ禍に伴う価値転換への対応

 

 

 

1.都心商業&オフィスニーズの展望

コロナ禍が落ち着くと共に、インバウンド消費などで、一部の観光地や百貨店では持ち直しの兆しが見えますが、リモートワークの定着に伴う通勤客の減少によって、都心商業施設は、V字回復とは言えないようです。

Eコマースに代替されて「売れなく」なり、在宅ハイブリッド勤務に伴い、わざわざ「来店しなく」なってしまった、という状況が続いています。

買い物行動では

「衝動買いが8割を占め、滞留客になれば客単価が4割アップする」

という定説があり、都心商業施設は集客・回遊施策によってその存在価値を発揮してきました。

通勤のついでに立ち寄って購入していたお客様が、わざわざ外出する必要を感じなくなった訳で、これからも「買い物目的」だけでは、人を集めることが難しいと覚悟すべきではないでしょうか。

 

同様にオフィスについても、都心5区では、空室率が3年ぶりに5%台に低下しているものの、新規の大規模オフィスと既存の中小オフィスとで、二極化している状況です。

就労人口の減少とリモート(ハイブリッド)ワークの浸透という長期トレンドの中で、都市開発ニーズの減退に対応していく必要があると考えます。

 

2.開発費の高騰

都市開発においては、ニーズの減退に加えて、建築費を中心とする開発費の高騰という逆風があります。

まず土地代ですが、東京都の公示地価(住宅地)は、2015年を100とすると、120ポイントに上昇しています。

安倍政権の誕生後、2013年にプラスに転じ、2020年まで右肩上がりを続けました。コロナ禍により一時微減しましたが、2023年から再び上層が続いています。

建設費については(一社)建設物価調査会によると、2015年を100とすると、2024年7月現在の指数は、S造オフィス:133.6、RC造マンション132.3となっています。

国立劇場の建て替え事業の公募不調や、五反田 TOCビルの建て替え延期などに見られるように、事業計画の見直しを迫られています。

建設費の高騰の要因としては、円安に伴う、ウッドショック、アイアンショックなどの材料費の高騰、ガソリン・電気代の高騰に加えて、時間外労働の上限が適用される建設業における2024年問題などによる人件費の高騰などが挙げられます。

これらの要因は、今後も厳しくなる傾向が予想されるため、2024年以降も開発費の高騰は続くと考えられます。

 

3.コロナ禍に伴う価値転換への対応

コロナ禍に伴う3つの価値転換を、今後の都市開発の前提にすべきです。

  1. 移動・交流の価値転換

リモートワークの体験を経て「オンラインでも仕事がこなせる」という認識がレガシー企業を含めて浸透しました。

その結果「移動に伴うストレスと無駄」が顕在化し、都心部の人流が減少しました。

さらに「会社への出社がイベント化」「会議はオンラインが基本でリアルな対面は特別」という認識が共有されるようになると、これまでの都市の基盤にあった「移動・交流の結節点としての価値」が大幅に減少することになりました。

  1. 集積・集客の価値転換

コロナショック後には「大量集客=不特定多数との密接」に対する違和感が残るようになりました。

これまでのより多くの人・モノ・情報を集積させることによる規模の合理性・効率化を都市の価値としてきた都市開発の論理への根本的なアンチテーゼといえます。

人が人を呼ぶ、賑わい志向の商業施設が不安の対象になるかもしれません。

次の時代には顔の見える適度な規模のコミュニティに対する評価が高まると共に、その構成メンバーとして各自がコミュニティを支える役割と自覚が重視されるようになるのではないでしょうか。

  1. 一斉・一律の価値転換

コロナショックを経て朝夕の通勤ラッシュや昼の一斉ランチを始め、盆暮れの帰省ラッシュなどの一斉行動に対して、リスクと非合理性を痛感しているのではないでしょうか。

独自の指針と判断による行動が、快適性と優位性を持つと認識されたのです。

ディベロッパーにとっては[交通利便性の高さ]×[売り場の集積規模]という成功の方程式が崩壊し、[固定+売上歩合]賃料による事業構造が成立せず、全国のショッピングセンターでは約18万件の空き区画があると言われます。

リアル商業施設の限界を見極めた上で、根本的な見直しが必要だと考えます。

 

これまで不動産事業において、都心の再開発を後押ししてきたのは、都市再生特区制度をはじめとする「容積緩和」のインセンティブでした。

一定の条件をクリアすることによって、建設できる「床」を増やすことができ、開発コストが割安になり、収益性を維持してきたのです。

ニーズの減退と開発費の高騰を受けて、「容積緩和以外のインセンティブが欲しい」という不動産事業者の声も届いている状況です。

単なる「床貸し方式」ではない、「複合的な収益構造」が求められています。

本シリーズでは、このような認識をもとに、不動産業における「多次元開発」の可能性と課題について検討していきます。

 
 
 

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