リアルな大学が「①共に学ぶ場②人間関係形成の場③トライアルの場」の3つの要素を検討していく為のベンチマークとして「次世代の飲食施設」のあり方が参考になると思います。ご存知のように飲食業界はコロナ禍で大打撃を受け、生き残りに向けて様々な工夫を模索しています。テイクアウトやデリバリーの充実といった手法もありますが、カフェ・カンパニー代表の楠本修二郎さんが提唱するのは「飲食業の6次産業化」です。6次産業とは元々は農業活性化のコンセプトでした。1次[農業]×2次[加工]×3次[飲食サービス]の掛け合わせによる総合的な体験提供を意味します。これまでのように会社帰りの「立ち寄り利用」を期待できなくなり、「わざわざ都心」に足を運んで飲食してもらう為には、単に「美味しい料理を提供する」だけではない総合的な体験提供が必要だということです。
例えば屋上には農場、三階には加工場、二階には調理場、そして一階にダイニングといった「食のイノベーションビル」なども提案されていました。創作におけるストーリー価値を語れる「都市型6次産業としての飲食業」が必要だということです。同様に大学も単に知識の伝達ではなく、「創造の6次産業化」という視点が有効ではないでしょうか。そのためには他分野と連携した創造体験の一部として位置付けた活動も有効です。スペインのグルメ都市サン・セバスチャンの美食クラブのように、レシピをオープンにしながら料理人だけでなく研究者やアーティストを含む様々な人が「食文化づくり」に参画できるように「創造文化づくり」を推進するのです。
これまで大学の研究室はそれぞれ細分化された分野毎に一匹狼的なスタンスで運営され、横断・交流もなかったことが、イノベーションを産まない主因だと言われます。周辺他分野はもちろんアートや音楽・カルチャーも含め次の創作に生かし、進化させる事ができる仕組みが重要です。大学が「創造の6次産業」の総合的な体験価値で成立していることを前提に、より高い視座で関係者を巻き込む研究マネジメント姿勢も有効になると考えます。
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