【内容】
1. これまでの論点整理
2. スタートアップ支援事業者の実感
3. 民間ディベロッパーの範疇を越える事業領域
1.これまでの論点整理
1. 「先進的なアイデア・技術を強みにして、新しいビジネスを作り出すスタートアップ企業」は経済成長のドライバーとして期待されているが、「安定を求めリスクを取らない」風潮の強い日本は、世界に取り残されている状況です。そんな中、都市再開発に伴う誘導施設として「スタートアップ支援施設」が台頭しています。
2. スタートアップ企業の成長初期の不安定な時期を支える施設は、紆余曲折を経て時代ニーズに対応したハード・ソフト両面での支援の定型を整えつつあります。
3. 「10兆円投資、ユニコーン100社、スタートアップ10万社」を2027年までに達成することを目指した、政府の包括的なスタートアップ支援施策や、これと歩調を合わせる東京都の施策などが始まったが、まだまだ成果を上げるに至っていない状況です。
4. ベンチマークにされるフランスのステーションFを筆頭に、大規模なスタートアップ支援施設が開業し、「様々なプログラム」を提供し始めており、再開発の誘導施設として「廉価なコワーキング」を提供した程度では、太刀打ちできそうにありません。
2.スタートアップ支援事業者の実感
都市再開発や総合設計制度に伴う、特区要件や産業支援用途区画を利用して「スタートアップ支援施設が大量供給」されている状況です。
またこれらの施設で実施されるイベント数も増加の一途を辿っています。
そんな中で大手ディベロッパーのスタートアップ支援責任者は、下記の4点を実感していると言います。
1. イベントの質の低下:イベントの数を増やすことと KPIにしているスタートアップ支援施設も多く、「イベントの質」の低下が顕著になってきています。単なる交流会やセールス内容にとどまる例も増え、関係者の間では、イベントに参加する意義を見出さない企業も増えてきています。
2. 囲い込み・ミスマッチング:各スタートアップ視線施設が、独自にスタートアップ企業やVCを囲い込んでしまう状況のため、横断的なエコシステムは少なく、本当に必要な支援にたどり着けないスタートアップが多くなってきています。
3. 資金調達まで伴走できない:スタートアップ支援施設数、イベント数は増加しているものの、エクイティ出資を行う枠組みやスキームを持たず、資金調達まで伴走されている支援施設やイベントは多くない。
4. 街ぐるみの食住支援の必要性:スタートアップ企業は大手企業と比べて、給与や役員報酬が安定せず、相対的に牛牛も低い状況です。スタートアップ支援施設として「働く場」は安価で提供されているものの、勤める人たちの「食住を含めた生活サポート」は不足して居る状況です。
当初から見ると、ハード重視の場の提供だけでなく、ソフト面の支援についても、対応するようになってきていますが、「サイクルに対応した支援」さらには「生活全般への支援」に至る「点ではなく、線、面での支援」が重要だと言うことでは無いでしょうか。
3.民間ディベロッパーの範疇を超える事業領域
従来はそのエリアで事業を希望する企業にオフィス床を提供していくことが、民間ディベロッパーの役割でした。
成熟社会化と人口減少が続く中で、それだけでは供給床を埋めることが難しくなる中で、都市再生特区の要件としての後押しもあり、企業を育てるためにスタートアップ支援施設を整備するようになってきました。
一方でスタートアップ支援には、従来のように「低コストでの働く場の提供」だけではなく、「投資家との接点づくり」を始め、さまざまなノウハウとネットワークとが求められるようになってきています。
このようなソフト面を充実させるためには、専門人材の確保とネットワーク構築及び接点イベント開催など、非常にスキルと手間・コストが必要になってきます。
CICの場合で言えば、6,000㎡(約1800坪)であれば、一人当たり10〜15㎡換算で、400〜600人程度のオアフィスとなります。フリーデスク料金8万円で、定員の2倍の会員数を確保したとしても、6400〜9600万円となり、月坪約3.5万―5、3万円となります。
通常のサービスオフィスでも有効率や人件費などで、元の賃料の3倍程度が必要と言われますから、スタートアップ支援施設として様々なプログラムコストを考えると、不動産事業としてはとても採算が取れるものではありません。
東急不動産の場合も、「シブヤの価値最大化」という大目標があるから取り組めるので、同様のスタンスで臨めるのは、丸の内における三菱地所や日本橋における三井不動産ぐらいではないでしょうか。
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