【内容】
築技(つきわざ)とは
築地の「目利き文化」
「築技」誕生のメカニズム
1.築技(つきわざ)とは
「築技」とは、築地市場の豊洲への移転後も、築地本来の魅力を残す目的で、NPO法人「築地食の街づくり協議会」が展開するプロモーションの呼称です。
「築地は単にモノを売る場所ではなく、そこには技がある」というメッセージが込められています。
いくつか例示します。
「東源正久(刃物):売っているのは包丁ではなく、切れ味です」
「江戸一飯田(佃煮):おはしが止まらない佃煮選びは、ご飯の温度に合わせること」
「昭和食品(塩干物):欲しい人がいるなら、江戸時代の鮭だって用意しますよ」
「鳥藤(肉類・卵):毎朝うちで解体する鶏肉は、全てがオーダーメイド」
「吉岡屋本店(漬物):ほかにない珍しい漬物が揃うのは、全国を自分たちの足で歩いて探しているから」
「角山本店(食料品):一切れの麩のなかに、色彩を何層も重ねる。だから、日本料理は繊細で美しい」
「玉八商店(玉子焼き):理想の玉子焼きの色のため、3つの産地の卵をブレンドしてます」
「くしや(青果物):マグロより高いけど、世界一美味い。そんなワサビを売るのも、築地だからこそ」
築地の魅力は「目利きの文化」だということがわかります。
2.「築地」の「目利き文化」
「築地」の「築技(=目利きの文化)」について、 LIFULL HOME PRESS(2016年9月5日:福島朋子氏)の取材コメントがわかりやすいと思います。
鰹節屋の「秋山商店」の秋山久美子社長は、「削り節と一口に言っても、背や腹などの部位によって、味は変わってきます。例えば“そば”の出汁に使うなら、蕎麦粉の香りに負けないように混合の削り節を使ったり、鰹節なら荒削りでじっくりと出汁をひく。“碗もの”に使うなら、碗ダネの邪魔にならないように、血合抜きのものやマグロをお勧めします」
食材の種類や部位はもちろん産地や季節によっても味は異なり、これを経験と勘でブレンドすることで、プロの料理人の要望に合わせているということです。
食材だけでなく、包丁を扱う「東源正久」では、売りっぱなしではなく、場内・場外市場の100店舗以上で使われ、その研ぎを任されているそうです。
調理器具の「山野井商店」では、調理人の要望に合わせて、独自の器具を開発したり、細かなオーダーに対応しているそうです。
「築地」は、もともと築地市場で取り扱われる魚や肉、生鮮品はもちろんのこと、調理器具や調味料、食器から刺身のツマまで、プロの買出し人に向けて商いしていた場所です。
各専門店の店主たちは、商品に対して、素材の選び方から調理法に至るまで、とにかく「知恵」を持っています。
料理人や「場内市場」のプロを支えるプロが「築地(場外市場)」の店主たちだといえます。
3.「築技」誕生のメカニズム
「築地」の「築技(=目利き文化)」は、どのようなメカニズムで生まれたのでしょうか。
そこには「築地」にしかない「立地環境」が関係していました。
東京という大消費地に向けて、東京都中央卸売市場「築地市場」には、全国(あるいは世界)の生産者からさまざまな食材が集まります。
先述したように取扱い品目は水産物約480種、青果物約270種という圧倒的な品揃えを誇り、特に水産物の取り扱い規模は年間40万トン以上で、「世界一の魚市場」と言われました。
そして「築地」の近接地には、日本橋をはじめ銀座や新橋という世界有数のグルメタウンが発達しています。
そのグルメタウンで生き抜いてきた一流の料理人たちが、買出し人として日常的に「築地」に通い、新しい料理を創作するための食材を見極め、様々な要望を出してきたのでは無いでしょうか。
大阪や京都などで見られる、郊外の卸売市場と中心繁華街のような距離感ではなく、世界一の魚市場とグルメタウンとが日常圏にあり、その接点として「築地(場外市場)」がありました。
まさしく「食に関する切磋琢磨の場」が「築地(場外市場)」だったわけです。
シリコンバレーをはじめとする「イノベーション拠点」に、集積性のあるクリエイティブ・コミュニティが有効なことは周知ですが、「築地」には「食のイノベーション拠点」としての条件が整っていたと言えます。
卸売市場は豊洲に移転し、大口の仕入れ先はそちらに移ったものの、アクセスが悪い点や権利関係が整理され、出入りの管理が難しくなった点などから、小口の買出し人たちは、引き続き「築地(場外市場)」を利用していると言います。
「築技」とは、世界一の魚市場とグルメタウンの一流調理人たちとによって作り出された「食のイノベーション拠点」としての成果・結晶だといえます。
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