これまでの検討で、歴史的な経緯を経て、政教分離により「街づくりのタブー」になった社会環境と、様々な観光・集客策に柔軟な社寺の特性と、マインドフルネスという逆輸入トレンドについて整理しました。その上で、これからの街づくりにおける神社仏閣の潜在価値を考えます。
【内容】
神社仏閣のコミュニティ価値
参拝の科学的な意味
お寺は利他精神の場
1.神社仏閣のコミュニティ価値
行動経済学の権威である大竹文雄教授の研究チームは、「神社仏閣の近所で育つと、一般的に人を信頼し、人から恩を受けると返したいと思い、利他的な傾向が高くなる」と言う研究報告をしています。
より正確には、「神社」の場合は、神社が地域コミュニティのハブとして機能し、コミュニティ活動の活性化を通じて、人から恩を受けたら返ししたいという「互恵性」が高くなると分析しています。
これに対して「寺院」の場合は、「どのような悪事も、天には必ず知られている。そして死後の世界に報いがある。」というスピリチュアルな世界観を感じさせることを通じて、「一般的信頼、互恵性、利他性を高めている。」というわけです。
神社は「地縁」、寺院は「血縁」というソーシャルキャピタルを高めると言うことになります。
ソーシャルキャピタルの上昇は、意外なことに「所得の上昇」に貢献しないようです。これはソーシャルキャピタルが社会コストの低減に寄与するためで、地域間労働移動を減らし、所得上昇効果を打ち消す反面、健康と幸福度が向上することになります。
近所に神社仏閣があれば、それによって、ソーシャルキャピタルが高まり、所得の上昇はないけれど、健康と幸福感が得られると言う、持続可能なコミュニティを形成できそうです。
2.参拝の科学的な意味
脳科学者の茂木健一郎氏は「神社参拝に科学的な意味づけは、神社に参拝することによって、自分の内面が変わることにある」と指摘しています。
神前で手を合わせ、日常の雑事から離れた空気の中で、「自分の心を整える。そのことによって、明日からの仕事に弾みがつく。」と言うわけです。
ですから、神様には何かを「お願い」するのではなく、むしろ神様の前で「自分はこんなことをします」と誓うべきであり、「お参りとは神様と約束すること」ということになります。
「精神だけでは勝てない、かといって心は無視できない。【心を整える方法論】を現代人はもっと考えたほうが良い。」と補足しています。
3.お寺は利他精神と人間成長の場
宗派を超えた僧侶たちと、全国で「まちのお寺の学校」プロジェクトを推進している松村和順氏は「お寺というのは不思議な場所で、自分最優先の思考回路が、鳴りを潜め、『おかげさま、ありがたい、お先にどうぞ』という利他的な思考回路が活性化する場所なのだ。」とコメントしています。
そしてお寺は、「自分の心を整える場であり、より良く生きる為の気づきを得る場であり、良き人との繋がりができる場」と位置付けています。お寺を「人間の成長の場」として捉えて活動しているのです。
都市における神社仏閣は、文化・観光資源としてだけではなく、【物質主義・資本主義とは異なる世界観と価値を提供する場】として位置付けられると、次世代の都市インフラとして有効ではないでしょうか。以降では【神社:シン地縁】【寺院:シン血縁及びシン自縁】としての機能とあり方について検討したいと思います。
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