【内容】
ヨーロッパの歴史まちづくり
アジアの歴史まちづくり
何を前提にするのか
1.ヨーロッパの歴史まちづくり
歴史まちづくりの海外事例で、よく引き合いに出されるのが、「ドイツ」です。
ニュルンベルグなど第二次世界大戦で、壊滅的な破壊を受けたにも関わらず、戦後、行政と市民との地道な努力によって、中世から続く町並みの復元が行われ、小さな路地に至るまで蘇っています。
今、これらの街を訪れる観光客は、その街並みが戦後に作られたものであることを知らずに、中世ドイツの雰囲気を楽しんでいます。
日本が、戦後の急速な復興と引き換えに、無国籍の近代ビル群と、看板と電線だらけの繁華街、そして息が詰まりそうなくらいに密集した住宅地で、都市を埋め尽くしてしまった事と比較して嘆く都市計画関係者は、枚挙に暇がありません。
そもそも市民が勝ち取った民主主義を支えようというドイツ人と、与えられた民主主義を利己的な資本主義に当てはめた日本人、という国民性の違いがあります。
そして自分たちの命を守るために強固な城壁を備えた「街」を築き、その中で暮らす為に、守るべき事が明確なヨーロッパの都市と、どこまでも増殖・拡散していける「村」という社会の基本構造が違うのですから、参考にしようがないと言えます。
2.アジアの歴史まちづくり
それではもう少し背景が近いアジアではどうでしょうか?
國學院大学観光まちづくり学部准教授の藤岡麻理子氏は、タイの例をあげ、歴史地区は文化遺産の制度でも、都市計画の制度でも、保全の対象になっていないけれども、歴史的環境の保全を重視して、地域活性化の活動が進められたり、旧市街地保全が、環境保全の一環として取り込まれたりしていると指摘しています。
また韓国や台湾では、建築物を文化財指定すると、その周辺は、文化財の建物を守るために重要なエリアと位置付けられて、都市計画の法律に基づき建築行為や建築物に高さなどに制限が掛かるそうです。
都市政策部局の職員も、文化財部局の職員も「文化財の法律は、都市計画法の上位法だ」と認識していると言います。
アジアにおいても、文化や歴史が、都市や社会にとってどのような位置付けにあるのかが、しっかりしており、日本における文化の位置付けの弱さを実感するとしています。
3.何を前提にするのか?
町並みの価値の違いの理由としては、下記の点が挙げられます。
都市や町並みを形成する最小単位である「建物」が、木造のため、クオリティの面で、欠陥があるものが多いこと。
その町で暮らしている住民が、街に対してアイデンティティを感じていないため、街を一体的に造形し、景観を整えるという意識がないこと
アーバンデザインを行う能力が、行政側、特に地方自治体に欠けていること。
街が大切にしたいプライオリティの置き方は、都市や地域ごとに異なり、時代の中でも変わっていきます。
その地域にとって「核となる価値」を見つけ出し、地域で合意し、実践していくプロセスや経験が必要なのではないでしょうか。
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