【内容】
「街」にとっての「歴史」とは
社会彫刻という考え方
歴史まちづくりの視点
1.「街」にとっての「歴史」とは
これまでの考察で「歴史の価値」について、下記のように整理しました。
「人間が社会的な存在であるからこそ、歴史を踏まえた「自己の確認」と「未来への決断」が有効で、「これから、みんなで」生きて行く方策を検討・共有する為には、歴史を基にしていくことが効果的」
それでは、「街」にとっての「歴史」とは何なのでしょうか?
「街」の「歴史」とは、「自己の確認」と「未来への決断」をしてきた「人々が生きた証」になります。
「人々の決断の証」が、街の歴史として「風土・建物・人々・土地など」に、過去から未来に堆積していくのです。
学者や役人的な発想ではなく、そこに暮らす人たちが、いつも生活感覚で実感・共有できる「証」が、街の歴史として重要ではないでしょうか。
過去からの履歴を持つ空間の中で、暮らす人たちが自分の履歴を積んでいく。
街は広義の「社会彫刻」だと考えます。
2.社会彫刻という考え方
ドイツのアーティスト、ヨーゼフ・ボイスが提唱したのが、「社会彫刻」という考え方です。
「すべての人間は芸術家であり、造形活動だけでなく、教育活動、政治活動など、あらゆる人間の営みは、たとえ芋の皮を剥くといった行為さえ、意識的な活動であるならば芸術活動になり、その成果が社会彫刻である」
という定義になります。
この具体例として、1982−1987年ドクメンタ会場で作成された「7000本の樫の木」プロジェクトが挙げられます。
これは会場となるカッセル市に、5年間にわたって樫の植樹と共に、玄武岩を置いていくプロジェクトです。樫の木は「生」を、変化しない玄武岩は「死」を意味し、生死の存在によって世界が成立していることを表現したといいます。
経済合理性だけで、街をスクラップ&ビルドしていくのではなく、「社会彫刻」としての街に、どのような「一筆」を加えるのが、効果的なのか?という視点でみると、街づくりが変わります。
過去に作られたモノ、古いモノを「背景・地」に見立て、現代のモノ、新しいモノを「前景・図」として加えていくことによって、「時間的方向性」と「格調」とを醸し出すように、街を育てていくことが可能になります。
3.歴史まちづくりの視点
都市の歴史を大切にすることは、ノスタルジーや歴史至上主義からだけではありません。
生活における不便が、ほぼ解消され、機能・スペック、デザインでは差別化が難しい「日常コモディティ時代」に、特化した価値提供に有効なのが、「ストーリー」であり、その礎としての正統性(=歴史)です。
神社・仏閣が「縁起や由縁」を語ることで、正当性を競うように、個人や企業も「どこで、何をしてきたのか?」が問われる時代になるのではないでしょうか?
その時にライフスタイルや企業活動の舞台として、「街の正統性、格調」が非常に重要になると考えます。
このような視点から、次回以降で具体的な方策を提案していきます。
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