top of page

次世代の沿線価値 ① 沿線価値の抜本的見直しが不可欠

  • 執筆者の写真: admin
    admin
  • 2022年7月27日
  • 読了時間: 2分

1. コロナ禍に伴う鉄道事業の苦境

2021年度の大手私鉄各社の鉄道事業は、旅客数が軒並み2019年度比で70%を割り込み、各社とも大きな赤字を計上しました。

鉄道事業は損益分岐点(固定費)が高く、旅客数が2割減少すると採算割れに陥ると言われます。業務改革などによる合理化や新規事業の立ち上げなどを懸命に模索していますが、それだけでは収益改善につながらず、値上げ申請が相次ぐと予想されています。

テレワークを体験し、通勤移動の無駄とストレスとを実感した都心ワーカー達が、コロナ収束後に全く元通りの就業スタイルに戻る、という事は期待できないというのが多くの有識者の見解です。


2. 阪急型モデルの崩壊

これまで大手私鉄各社は、沿線価値の向上を経営目標に事業を展開してきました。

沿線価値とは「利用者数×ブランド力(=高所得)」と定義されます。都心と郊外を結ぶ私鉄各社は「阪急モデル」と言われる「鉄道、宅地開発、都心商業」をセットにした事業経営で「住む、移動する、買う」という消費ポイントを抑えてきました。

宅地開発単体での収益が低くても、都心ターミナルの商業施設の利益や鉄道運賃を合算することで、安定した収益構造を構築してきたのです。この収益構造を元に、利用者数と自社ブランドの強化という沿線価値を高めることに注力してきました。

沿線価値は鉄道各社さらには各沿線によって異なり、東急田園都市線であれば「住みやすさ重視」、京急本線であれば「ビジネス利便性重視」、東武伊勢崎線は「観光重視」などが志向されてきました。いずれも都心通勤に付帯したライフスタイルを前提にしてきたのですが、その前提が崩壊したのです。

テレワークの浸透により、都心への通勤旅客数は大幅に落ち込み、収益の柱でもある通勤定期の解約も本格化しています。通勤帰りの立ち寄りや、定期券を利用した休日の都心ショッピングの機会を減りました。そして「どこででも働ける=どこにでも住める」という状況が、「通勤〇〇分」という住宅地の沿線ヒエラルキーを覆しています。


3. 10年前倒しの事業モデル転換

少子高齢化が進み、首都圏でも2030年頃を想定した近未来には沿線人口の減少が深刻化するため、各社とも対策を検討していました。その近未来がコロナ禍により、10年前倒しで到来することになりました。

「都心通勤に付帯した沿線価値そのもの」を抜本的に見直す必要がある状況です。今シリーズではこの認識のもと、歴史的変遷を踏まえて、次世代の沿線価値について考察します。



 
 
 

最新記事

すべて表示
シンふるさとの未来 シンふるさと論 ⑩

【内容】 1. 未来の日本社会における「ふるさと」の変容 2. 日本の未来社会の特徴 3. 「ふるさと」の概念を活用した日本の都市の国際競争力向上 4. 【シンふるさと宣言】 1.未来の日本社会における「ふるさと」の変容 ...

 
 
 
シンふるさと論の功罪 シンふるさと論 ⑨

【内容】 良い影響 悪い影響 影響をどう活かし、どう克服するか     「シン・ふるさと論」は、日本社会の都市と地方の関係性を再構築し、新たなふるさとの概念を生み出す可能性を秘めています。 本稿では、その良い影響と悪い影響を整理し、どのように活かし克服すべきかを考察します。...

 
 
 
方策3 「共創ふるさと」構想 シンふるさと論 ⑧

【内容】 新たにふるさとを共創する視点 共創するための方策 多様な人たちを巻き込む効果     1.新たにふるさとを共創する視点   これまで「ふるさと」は、その地域の出身者が受け継ぐものと考えられてきました。 しかし、人口減少が進む現代では、「受け継ぐ」だけでなく「新たに...

 
 
 

Comments


Copyright © FIACS, All Rights Reserved.

bottom of page