コロナ禍に伴い住宅選びにおける、都心への通勤条件が大幅に緩和されました。2022年現在もフルリモートは少ないものの、会社への出社は週2−3日というハイブリッド勤務が定着してきました。
これまで居住エリアの選定は、会社への通勤時間を基準にしていただけに、本当にワーク・ライフバランスを考慮できるようになったわけです。「どこででも働け、どこにでも住める時代」になりつつあります。この価値シフトはこれまでの都心を頂点とした住宅地のヒエラルキーを混乱させます。自宅を中心とした生活圏で過ごす時間が長くなると、「都心から〇〇分」「駅から〇〇分」という交通利便性以外の「生活価値」が求められるようになります。緊急事態宣言下で自宅周辺でしか過ごせない期間に、住宅とランチ対応のチェーン店しかない「我が街の退屈さ」を痛感した人も多かったのではないでしょうか。
次世代の沿線価値及び駅のあり方を検討するにあたって、価値観の変遷を対比の視点で整理したいと思います。まず社会動向については、これまでの「人口増加と都心通勤」から近未来では「人口減少とテレワーク中心」という前提で検討すべきです。そうなるとこれまでの「ベッドタウンとしての沿線郊外と立寄り・時短志向商業としての駅ビル」から、役割・機能のシフトが必要になります。「都心通勤の後背地」としてではなく、「自律した生活圏」としての沿線郊外が求められ、中機能に加えて一定の職遊機能が必要になります。具体的な詳細は別途記述しますが、各家庭では対応しきれないテレワーク対応のサードワークプレイスと、ランチ対応のチェーン店ではない飲食店などが求められます。ただ「自立した生活圏」づくりは、価値観の変遷には対応できる一方で、「旅客数の減少」に歯止めが掛かりません。都心通勤に変わる旅客施策として「遊動創発」の仕掛けも必要です。「道の駅」をベンチマークと想定しますが、各エリアの産品や魅力を駅で発信し、自由時間が増えた人たちが、気分転換を含めてプチ移動し、下車したくなるような設えが駅(もっと言えばホーム上)に必要だと考えます。街の魅力を発信するギャラリー、「街の駅」とでも言えるでしょうか?各エリアの特徴を活かした様々な「街の駅」が沿線上に連なることで、人の「遊動」が促し、旅客数の増加を目指すのです。これまでは通勤利用者の日常生活利便を時短という訴求ポイントで支援してきた駅ビルも、住民の「プチ目的地」としての機能に加えて、来街誘致のための「街のゲート」になるのです。そこで発信される街の魅力発掘も、従来のシビックプライド醸成志向ではなく、来街誘発志向が必要になります。単に「オラが街の自慢」ではなく「他と比べてどう優れているのか?」の相対評価や全体編集が必要になります。一つの駅だけで全てを賄うことは困難ですので、複数の駅での連携が不可欠です。沿線全体という大商圏ではなく、各駅毎という小商圏でもない、2−3駅をグループ化した中商圏での施設機能の再編が求められていると考えます。
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