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文化観光の課題 シン・文化観光 ⑤

【内容】

  1. 日本文化を提供する視点

  2. 体験プログラムでは稼げない

  3. 総合的な体験サービスの提供主体

 

 

1.日本文化を提供する視点

「日本文化は、目に見える部分だけでなく、その文脈の説明を補足しなければ、チープに見えてしまう」という、先述のエイベックスの中前氏のコメントにあるように、欧米の壮麗な石造りの文化資源に比べて、質素で小ぶりな日本の文化資源の魅力を伝えるには、情報(解説)が必要だと考えます。

また、日本の解説では、日本における歴史的な起源とモノづくりの苦労ばなしに、終始することが多いのではないでしょうか?

日本人向けには、その程度で良いのかもしれませんが、インバウンド対応では、世界目線で見た相対的な「トピック」の説明を重視する必要があります。

その歴史性が、世界史的にどのような位置付けになるのか?或いは、その文化性が、西洋的な文化文脈と比較して、どのような特徴があるのか?

「近視眼的な苦労ばなし」ではなく、「相対的にどのような価値を提供」できるのかという視点で説明していく必要があると考えます。

その価値を体験することが、インバウンドにとっての文化観光の満足度につながるのではないでしょうか。

 

2.体験プログラムでは稼げない

このように、手間のかかる体験プログラムの収益性について、試算してみます。

まず一般論として、売上に占める人件費の割合は30%程度になります。

そのため、必要な年収の3倍程度が、売上目標になります。例えば、年収400万円とすると、1200万円の売り上げが必要になります、

1年365日のうち、有給休暇を含む休日を差し引くと実質稼働日は250日程度と想定されます。

そうすると1日あたり4.8万円(1200÷250)の売上が必要と算出されます。

体験プログラムの価格は、一般的に数千円程度ですから、粗利3,000円(体験費用5,000円)と想定すると、16人が必要になります。

客の立場に立つと2−3時間程度は楽しみたいので、各回8人で一日2回催行する計算になります。

観光客の絶対数が多い、東京、大阪、京都あたりでは、成立可能かもしれませんが、地方ではどうでしょうか。

アソビューやainiなどの体験プラットフォームを見ても、この単価・人数・頻度で催行できている体験プログラムは少なく、実現の難しさが分かります。

 

3.総合的な体験サービスの提供主体

体験単価1万円を納得して、支払ってくれるインバウンドが、大幅に増えない限り、地方において体験プログラムを、単独事業として自走させることは、かなり難しそうです。

宿泊などの別事業の付加価値として、副業的な位置付けで実施されるのが、現実的ではないでしょうか。

「RYOKAN(旅館)」というインバウンド向けのプラットフォームの上で、上質なサービスを高単価で提供する「星野リゾート」が、一つのロールモデルになると考えます。

「星のや京都」における日本文化の体験プログラムは、鵜飼の鑑賞:10.2万円、華道体験:7.6万円(2人)、ホタル狩り:1.65万円となっています。

おもてなしとして、日本人が得意とする「丁寧できめ細かな」サービスを提供することで、期待値を高めていきます。

その上で、様々なオプションサービス、日本文化の体験メニューを用意し、他では味わえない体験価値を提供して、高額な客単価を実現する仕組みです。

文化観光を全国に普及させるには、「相対的な提供価値を総合的に体験させるサービス」の提供主体が必要だと考えます。

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