top of page

ニッポン・シアター③ 日本的ハイコンテクストという課題への対応

  • 執筆者の写真: admin
    admin
  • 2022年3月7日
  • 読了時間: 2分

日本には独特の美意識があります。代表的なモノだけでも「短調」を基調にした音階志向や、「挽歌」を主題とした和歌、侘び寂びをはじめとした「見立て」、「余白と引き算の美学」などが挙げられます。和歌や俳句によって磨かれた「自然を愛でる表現」の多さも、他に類を見ない美意識といえます。森羅万象に「神・モノの怪」が宿るとして敬い、頭や理性だけに頼る事なく「所作や型、身体性」を重視する鍛錬法も特徴的です。「日本語」という言語のハードルに加えて、いずれも極めてハイコンテクストで、異文化の視点では簡単に理解することが困難です。

能や狂言は、人間国宝の方々のコメントでは、自然と対峙して支配する声と身体を作ることを旨とし、派手さ・楽しさを表現するのではなく、見る側・聴く側に「面白いと思う心」を育てる文化だと言います。安易に説明するのではなく、自分自身との対峙を要求します。そうでないと「感動」の前に「納得」してしまうのだそうです。自らの技を「道」として磨き上げ、それを披露する場としての観劇環境という認識が根底にあり、観劇者を楽しませる比重が低い傾向にあります。このように鑑賞する側に一定の「忍耐」を強いる文化をどう成立させる事ができるでしょうか。

さらに観劇空間は能楽堂のような狭い空間から大ホールに変わり、微妙な音程幅よりもビート感のある器楽表現が好まれるようになっています。以前美輪明宏さんが、ファッションのトレンドがエレガントではなく、カジュアル志向に流れることを嘆いていましたが、一部の特権階級向けの美意識から、広く大衆の嗜好に対応するという産業動向を踏まえると、このトレンドは必然であると考えます。

自分のこだわりや主張ではなく、大きな時代背景や社会動向を踏まえた上で、どのような価値シフトを仕掛けていくのかを考えると、ハイコンテクストを理解した観客に対応した観劇施設と、ビギナー向けの分かりやすい観劇施設の二重構造にせざるを得ないのではないでしょうか。

 
 
 

最新記事

すべて表示
基本的な視点と三つの戦略 AI共創オフィス ⑥

【内容】 第1章 AIと分散ワークがもたらす働き方の地殻変動 第2章 AI時代の競争力を支える「企業文化」という内的OS 第3章 AI×文化の共創拠点としての企業オフィスとサテライトオフィスの連携     第1章 AIと分散ワークがもたらす働き方の地殻変動 生成AIの進化とリモートワークの定着により、私たちの「働く場所」の概念は大きく変わりました。 業務の多くはオンラインで完結でき、駅ナカや自宅、

 
 
 
AI時代における企業オフィスの課題と方向性 AI共創オフィス ⑤

【内容】 第1章 AIが生む「標準答案社会」と思考の軽量化 第2章 意思決定の“軽さ”がもたらす成長の喪失 第3章 “唯一無二”の判断軸を生むのは、企業文化である     第1章 AIが生む「標準答案社会」と思考の軽量化 現代は、AIの進化とリモートワークの普及によって、私たちの意思決定のあり方が大きく変化しています。 とりわけAIは、「優秀な常識人の標準答案」とも言うべき、整合的で倫理的かつ網羅

 
 
 
オフィス研究の変遷 AI共創オフィス ④

【内容】 第1章:管理のためのオフィス ― 生産性と効率の時代(1900〜1950年代) 第2章:人間中心のオフィス ― 働きがいと組織文化の時代(1960〜1980年代) 第3章:知識と多様性の時代 ― IT革命と新しい働き方(1990〜2010年代)     ここでオフィスの進化を先導してきた「オフィス研究」の変遷について、お整理しておきます。 第1章:管理のためのオフィス ― 生産性と効率の

 
 
 

コメント


Copyright © FIACS, All Rights Reserved.

bottom of page