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エリアクオリアの未来 エリアクオリア指標の可能性と課題 ⑩

【内容】

  1. 「来街者数」から「ファン数」へ

  2. 経営資源としての街づくり

  3. ファン・キャピタルという価値

 

 

街のファンを可視化し、増やすことを目指すエリアクオリア指標ですが、その先にどのような未来がイメージできるでしょうか。


1.来街者数からファン数へ

子ども達に「本物に限りなく近い職業・社会体験」の機会を提供する「キッザニ

ア」はエディテイメント施設としてスポンサー制度を活用しています。

現在国内3箇所に展開するキッザニアは、予約制のため各施設とも、年間80万人30億円程度を上限に運営されていますが、そのコンセプトの秀逸さと一業種一社の占有型協賛で、東京47社、甲子園では49社、福岡は34社のスポンサーを集めています。

当初想定された収益構造は、入場料50%、スポンサー収入30%、グッズ収入20%でした。

スポンサー企業はパビリオンの初期投資(2,000万円〜1億円)や維持コスト(毎年初期投資の60%程度)などを負担しています。

想定通りであれば、18億円程度のスポンサー収入になります。

体験シナリオや設備・ユニフォームなどは、スポンサー企業の方針を踏まえて制作し、企業ロゴを冠したファサードやユニフォームを着用してフランド訴求しています。

企業にとっては、CSRや SDGsなどによる企業価値に向上はもちろん、ブランドロイヤリティの確立や企業メッセージの訴求につながるようになっています。

複合都市開発では東京スカイツリーが、年間数千万円で10数社のオフィシャルスポンサーを集めるなど、10億円を超える多彩な賃料外収入を確保しています。

その他六本木ヒルズも同様の仕組みを導入していますが、スポンサードの対価は、施設内でのメディア掲出の年間枠の提供などに、限定されています。

東京スカイツリーや六本木ヒルズが、いずれも年間数千万人の来街者が有ることを考えると、キッザニア80万人、などの「集客数とスポンサー料の関係」には大きな開きがあります。

単なる来街者数ではなく、ファンは高頻度、高単価のヘビーユーザーであり、街の応援団であり、街の研究員&口コミ・インフルエンサーという「次世代の町衆」的な存在と言えます。

 

2.経営資源としての街づくり

近年 ESG投資が急速に拡大し、2025年には世界全体の運用資産140兆ドルの1/3を占めると予想されています。

また企業活動の様々な場面でSDGsへの対応が指摘され、意識されるようになりました。

さらに健康経営という言葉も定着しつつあります。

いずれの動向にも共通するのは業績や設備投資などの「事業的価値」だけでなく、幅広いステイクホルダーを対象にした「社会的価値」への評価の高まりです。

健康経営がもたらす生産性向上や欠勤・離職率の低下などは内面的な持続性につながり、SDGsの推進に伴う広義の市場環境整備などは、外面的な持続性の必要条件と言えるのではないでしょうか。

企業価値において事業的価値に準じる形で、持続成長性につながる社会的価値が評価される時代になったと言えます。

一方で、いつでもどこでも働ける時代には、ハイブリッド通勤を前提に「わざわざ出社する価値のある」企業オフィスが求められます。

郊外住宅地にはない「多様な交流機会の提供」が、都市の価値になるのだとすると、利便性・規模性だけでない「街の文化的な魅力」が求められていると言えます。

前述のキッザニアのスポンサー価値にこの動向が垣間見えます。

企業にとって「街」は、重要な文化発信の舞台であり、一種の「経営資源」だと考えるべきです。

街の文化は街のファンが生み出し、支えています。

「どんなファンが集う街にオフィス(店舗)を構え、どんな活動をしていくのか?が社員からも社会からも評価される時代」

になっていると言えるのではないでしょうか。

 

3.ファン・キャピタルという価値

社会学にソーシャル・キャピタルという概念があります。

ソーシャル・キャピタルとは「人と人の繋がりが地域の資産になる」という考え方で、ネットワーク(人脈)・互酬規範(助け合い)・信頼の三要素から構成されます。人々の協力関係の促進が、社会を円滑に機能させるというモノです。

その効用として、安心・安全領域では犯罪率の低下や落書きなどの防止、さらには防災や災害復興への効果が想定されます。

経済・ビジネス領域では信頼関係に基づく取引コストの低減や、起業・新規開業の促進に伴う失業率の低下が考えられます。

そして健康・福祉領域では人付き合いや健康増進活動の促進による健康長寿化や出生率の向上が期待されます。

 

この考え方をベースにすると、「ファン・キャピタル」という概念が、生まれそうです。

ソーシャル・キャピタルが「地縁」を起点にして、主に社会コストを抑制する効果が、期待されているのに対して、ファンキャピタルは「知縁」を元にして、社会コストの抑制だけでなく、来街者数、購買単価、共創・広報メリットなど、様々な利益も期待できます。

エリアクオリア指標は、「ファン・キャピタルの醸成エンジン」として、個人、企業、社会の活動価値を増大させるプラットフォームだと言えます。

このような未来を描きながら、エリアクオリア指標のアップデートと普及を推進していきたいと考えます。

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