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「まちを記録し、つなぎ直す」ための仕組みづくり 「関わり資本」による都市再生 ⑨

  • 執筆者の写真: admin
    admin
  • 7月7日
  • 読了時間: 4分

【内容】

第1章:ボトムアップ型まちづくりの課題は「記録と共有」にある

第2章:「地図」と「編集」が生み出す循環のデザイン

第3章:まちは記録によって次の関わりを生むメディアになる

 

第1章:ボトムアップ型まちづくりの課題は「記録と共有」にある

近年、地方都市を中心に、空き家活用、市民マルシェ、小さなまち歩きなど、住民の自発的な関与によるボトムアップ型のまちづくりが各地で広がっています。

こうした動きは「関わりしろの提供」「自分ごと化の仕掛け」「続けられる環境」といった視点を軸に、多様な市民の参加を生み出しています。

しかし、多様性と柔軟性に富む一方で、課題となっているのが活動の可視化と継承です。

活動が個別のプロジェクトで終わってしまい、他の人に引き継がれなかったり、どこで何が起きたのかが共有されないまま、まちに埋もれていってしまうケースが少なくありません。

このような事態を防ぎ、地域の「関わりの履歴」を都市の資産として蓄積していくためには、日々の取り組みを丁寧に記録し、可視化し、再編集していく仕組みが必要です。

ここで提案するのが、「まちの関わり可視化マップ」と「まちの編集長」という2つの仕組みの連携です。

 

第2章:「地図」と「編集」が生み出す循環のデザイン

「まちの関わり可視化マップ」は、地域内の小さな活動を地図上に記録・表示する仕組みです。

たとえば、空き家を活用した1日限定のカフェイベント、商店街の空きスペースを使ったアート展示、子どもたちによるまち案内など、一つひとつの活動を「いつ・どこで・誰が・どんな思いで行ったか」といったストーリー付きで記録します。

この地図は、まちの住民や行政職員、移住希望者、学生など、様々な立場の人にとって「関わりの入口」となります。

過去の活動を地図からたどることで、「こんなことができるんだ」「次は自分もやってみたい」と思うきっかけになります。

まち全体が“ラーニングマップ”のように機能するのです。

そして、このマップの情報を編集し、意味を加え、発信していく存在が「まちの編集長」です。

編集長は単なる記録係ではなく、まちで起きた小さな出来事に文脈と物語を与える存在です。活動の背景や参加者の声を丁寧に拾い、時にはインタビューや写真、動画などを通じて、その価値を他者に伝わる形で可視化していきます。

編集長が情報を整えた上で可視化マップに反映することで、情報の質が担保され、マップは“ただの記録”ではなく“意味ある記憶”として機能します。

また、SNSやローカルメディアと連携することで、地図の一部が物語として流通し、まちの魅力が内外に届くようになります。

 

第3章:まちは記録によって次の関わりを生むメディアになる

「可視化マップ × 編集長」という仕組みは、単なる記録や広報を超えた役割を果たします。それは、まちをひとつの“メディア”として再構成することです。

まちに関わる人々の足跡が、地図という形で“見える化”され、そこに編集という“意味づけ”が加わることで、まち全体が「語られる場」へと進化します。

さらに、こうした記録は単年度で終わらせるのではなく、「まちの白書」や「関わり図鑑」として冊子化し、地域内外に届けることも可能です。

地域内では学校教育や地域会議の資料に、地域外では移住案内や観光ガイドとしても活用できます。また、編集長が中心となって月1回の「シェア会」や「発表サロン」を開催すれば、活動者どうしがつながり、次のプロジェクトが自然と生まれる土壌になります。

まちづくりにおいて、最も重要なのは「関わりが生まれ続ける環境」をつくることです。そのためには、関わった人たちの記録を残し、他者に届け、次の行動につなげていく仕組みが不可欠です。可視化マップと編集長は、そのための両輪として機能します。

まちに関わった一人ひとりの足跡が、「このまちの未来をつくる物語」として蓄積されるとき、地域は“個別の活動の集積”ではなく、“共有された記憶を持つまち”へと変わっていくのです。

 
 
 

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